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清清な朝は川柳の創作タイム
 遠藤先生のそもそもの川柳との出会いは、茶の間に置いてあった、父上がつくった川柳のスクラップブックを何気なく見たことに始まる。
平成3年のことであった。
地元に戻ってきて少し心にゆとりもでてきたこともあり、そのスクラップブックを見ていたとき、「おやじは、こんなことをやっているのか。おもしろそうだな」とそれぞれの句を読んでいるうちに「私にもできそうだ。やってみよう」という気持になった。
それでできたのが処女句、「聴診器心の音も聞いてやり」だそうだ。

 その句が朝日新聞の全国版川柳欄に掲載された。
父上は医者の間はもとより、川柳家の間でも知れ渡った存在で「柳号遠藤余詩朗」を名乗っていた。
その父にこの快挙を珍しくほめられたそうだ。

 先生の創作タイムは、朝5時から7時までの2時間。
清清しい朝に全国、地方合わせた8誌の新聞から時事句を10句、一般川柳を10句を作る。
一般川柳は「川柳メモ」から前日に出会ったし患者さんのエピソードや医療関係者、また家族の言動等を思い出しながらひねり出す。
そのなかから1句を選び、毎日投句じている。

「1句の後ろには9のボツ句があると思って下さい。推敲に推敲を重ねて、10句のなかからやっと1句が仕上げられているのです」と、先生は川柳を生み出す苦労を語る。

先生は川柳を始めて今年で10年になるが、これまでにざっと1万句はつくっているそうだ。
「いい句ができればできるほど、それを超える句をつくりたい。だから、毎日が壁に当たっている様なものです」と、先生は毎日の精進を話すが、幸か不幸か前述の処女句を超えた句はまだつくっていない。

その他をご紹介すると、
「満点と いう健康を 不安がり」
「人生は 布オムツから 紙オムツ」
「いたずらに かけな眼鏡が 良く見える」
「健康の 深追いをじて 不健康」
「名医より 良医の方が 温かい」
「健康で ドック帰宅後 重病人」
「レントゲン 心の傷は うつらない」
「どのメスで 開けよう 21世紀」

「川柳には俳句と違い"しぼり"がない。自由奔放。何でもありです。だから恐い」と、先生は言葉のもつ暴力と癒しの両面を意識する。

「小説でもそうですが10代に読んで同じものを40代に読んだ時、感じ方が違うのと同じようにまた、川柳も人生の40代に感動する句と60代に感動する句はおのずと違ってくると思います」とその深さを語る。
医療法人健心会えんどうクリニック院長
俳句好きの患者さんから贈られた色紙。先生の句「知らぬ間に 父の仕種で 酒を飲み」に対句として「酌を
 
先生は、日本医療企画の月刊誌「ばんぶう」が掲載する「柳壇」の初代選者・鈴木黄先生のご指名で2代目選者を担当じている。
「人の句を選ぶためには、自分自身よく勉強しないと選べません。
41年間、生きて来た人生経験のなかで、いいと思ったものを選ばせていただいています。
まだまだ若輩ですが」とその任の重さを語る。

 先生の川柳の趣味は、毎日の新聞への投句のこともあって自然に患者さんに知れ渡った。
趣味が患者さんとのコミュニケーションを円滑にするという利点も生じた。
俳句の趣味をもつ患者さんが、先生の句に、俳画とそれを受ける対句を添えた色紙をプレゼントした。
「川柳の輪」の拡がりは、先生にとってとてもうれしいことだ。

 将来は、患者さんとともに川柳教室みたいなものをつくりたいという。
「当院に入院して私のスクラップブックを見て川柳をするようになった患者さんもたくさんいます。
カンファレンスルームに有名な川柳家を呼んで講演してもらい勉強したりまた、その教室から全国に通用するような一流の川柳家を育てるのが今の私の夢でも」と未来へ目を輝かせる。
患者さんから贈られた色紙
先生の句をもとに、イラストレーターの池尻克美さんの色紙