福島県会津若松市藤原一丁目5番地−32
TEL0242-33-0700
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水曜 午前8:30〜午前12:30まで
午後 休診
土曜 午前8:30〜午前12:30まで
午後2:00〜午後5:00まで
休診日 水曜日午後・日曜・祝祭日
新患の受付
平日
午前は12:00まで 午後は17:30まで
土曜
午後は16:30まで
但し緊急を要する場合はこの限りでは
ありません

囲み1 医薬連携における伝達力

 クリニックとは忌憚のない迅速な質疑応答でコミュニケーションエラー防止に努めています

 開局して12年目ですが、先生とは当初、幾度となく診療姿勢や薬局像等、徹底的に話し合いました。
そのお陰で、お互いを理解した医薬連携が可能になったと思います。

 薬剤師は処方箋から患者情報を読み取るのですが、併せて先生の治療方針を読み、できるだけ先生と同じ視点で個々の患者支援ができるようにと心がけています。
当然、疑義照会等、疑問や確認は迅速に連絡をしてクリアにします。

 また、先生に治療方針を確認した場合などは、当局のスタッフ全員に伝達し、意思統一を図ります。
 先生が常に言われることでもありますが、「疑問は後に回すな」を当局のスタッフにも徹底しています。
直後の患者さんの処方箋にも同様の疑問が生じる場合があるからです。
クリニックの内外に関わらず、患者本位の医療を質高く実践するには、関係職種での正確な情報共有が欠かせません。
それは地域医療の充実を図る上でも重要です。
前提となるのは伝達力。疑問の迅速なクリアも伝達力にかかっています。
 当局の伝達力向上を図るだけでなく、スタッフが「患者に寄り添う医療者」の心を学ぶ上でも、忌憚のない質疑応答をさせていただけるクリニック、先生には感謝しています。

囲み2 問診表の工夫と配慮

 新患問診表は14問で緑の紙。
胃腸系は15問でオレンジ色の紙。
直腸・肛門に関連した問診表は、患者への配慮から「新患質問表」となっている。
質問は20問、黄色の紙。
その他にも検査用の問診表など色別に一目で判断出来る仕様となっている。
また問診項目の細分化について、遠藤氏は、「細かな問診で、約7割の疾患は見当がつく」と、その重要性を強調する。

囲み3 健康セミナー

 月1回、木曜日の18時30分から開かれる。
開院時から782回を数える。
出席者は平均20〜25人。無料。

「患者さんは、相談したいことや質問などがあっでも、我慢している方がいらっしゃいます」という遠藤氏は、一方で「看護師や事務職員に聞かれたくない。また、他の患者さんに知られたくない」といったことも理由と説明する。

 「私は、そうした様子を察知するように努め、『外来で言えないことがあれば、健康相談で個別に話を聞きます。
何でも相談してください』と、伝えます」

 健康相談では、前半はテーマを決めて参加者に情報提供する。後半は、相談者と1対1で話をする。
 遠藤氏は、「胃の具合の悪い理由は、実は嫁姑関係にあった」と分かることもあると、傾聴の大切さを指摘する。
一方で、「最善の治療を行うためには、先端医療を勉強し、病診・診診連携も含めて治療に生かすスキルアップが必要ですが、加えて患者さんの機嫌、顔つき、歩き方などから状態を推察し、何の目的で受診したかを即時に的確に判断することも臨床ではとても大切なことだと思っています」。
雑誌インタビュー・執筆情報
明日の医療経営を考える 2012 No.19

伝達事項は文書にする。連絡ノートやカルテの記入欄、附箋など「目に留まる」工夫で情報を共有

医療機関の激戦区・会津若松市にあって、えんどうクリニックは1日の平均患者数が130人を超える有床診療所である。
同院では、遠藤剛院長と職員が心を一つにチーム医療を展開。
患者には「安心して任せられる」と評される。
多忙だからこそ求められる迅速で正確・確実な情報伝達では、「人は必ずミスをする」の視点に立って、全職員による様々な工夫が実践されている。
また、同院独自の院内事故防止対策マニュアル(現在は12項目)を全員参加で作成するなど、医療姿勢や安全管理の情報共有にも努めている。
同院の取り組みを紹介する。

良質な医療に職員の伝達力向上は欠かせない

 当院は1994年11月の開院ですが、当初から始業前には必ず、全職種が出席する朝礼を行っています。
申し送りだけではなく前日を反省し、必要な情報を全職員が共有して、その日の職務に臨む。
それは、「安心とまごころの医療」をモットーに、「納得のいく診療」と「分かり易い医療」を実践するという、当院の基本姿勢を日々再確認する場でもあります。
情報の共有ということでは、皆が知恵を出し合い、伝達力の向上にも努めています。

 現在の外来患者数は、1日平均130人以上ですが、開院当日は19人。
うち10人は親戚でした。開院前の6年間、私は竹田綜合病院に勤務していました。
心の隅にあった「大病院に勤務していた」のだからという期待は見事、初日に崩れ去ります。
当院を必要としてくれる患者さんを、ゼロから増やしていかなければいけない、と痛感したものです。

 当院を信頼して受診いただくには、私の目指す医療に対し、職員全員がベクトルを同じくするための教育と、正確な情報共有のためのスキルアップが最重要課題だと考えました。
その上で、保険薬局とも協力関係を築き、多職種がお互いの専門性を理解し心を一つにして、自分の家族同様に、患者に寄り添う。

 快活な職員に接する患者さんは「元気をもらえる」と言ってくれますが、私は職員と患者さんが両輪となって、私の目指す医療を牽引してくれていることに感謝しています。

良質な医療を実践するには、全職種が横断的に正確な情報を伝達・共有するシステムが必要

 「『患者さんの命は、職員全員で預かっている』という自覚が、一番大切です」
 えんどうクリニックの院長・遠藤剛氏は、医療者としての心得をそう明言する。
同クリニックの職員は15大(看護師8人、事務職員4人、厨房担当者3人)。
始業前の朝礼には看護師全員と、他の各部署からは最低2大が出席し、前日の反省や申し送り、新たな注意喚起、また院長からのタイムリーな医療情報の提供等が行われる。
出席者は、朝礼の内容を所属部署の全スタッフに伝える。
正確な情報伝達・共有をもって、1日の業務が開始される。

 しかし、同院は有床診療所である、交代勤務の看護師もいる。
各部署での伝達とは別に全職員が閲覧できる連絡ノート(写真1)に朝礼の内容が簡潔に記載され、その日の申し送り事項等を把握できるようになっている。
朝礼に欠席した看護師の場合は、まず連絡ノートに目を通した上で、その日の業務開始までの状況変化等を把握する。
それは、クリニックでの業務、あるいは患者状態を「連続したものとして正しく伝達する」ためである。

 朝礼に各部署から最低2人が出席するのも、部署の他のスタッフに伝達し、スタッフ全員が正しく情報共有するためである。
 一方で遠藤氏は、「全部署が横断的に指示ミスや伝達ミスの防止を支援し合う」ことも必要だと考えている。

 「ボートに例えれば、私かコックス(舵手)。
当院の看護師、事務職員、厨房担当者が、一本ずつ持ったオールを全員、同じ力で漕ぐイメージです」

 コックスの指示で、全員が的確にオールを漕がなければ、目的遂行は叶わない。
安全管理もその範疇にある。

 「安全管理で、まず自覚しておくべきは、『人は必ずミスをする』。
『明日は我が身』かもしれないということです。
また、全員でミスを共有する精神が人切です」

 遠藤氏は、医療安全面では職員を教育・育成することが、第一の重要な使命だという。

院長・看護師が医療事故の可能性を7項目に分類し、全職員で「院内事故防止対策マニュアル」を作成

  1999年に起きた大学病院でので手術患者取り違え事件に鑑み、同院は2000年、リスクマネジメント委員会を発足させた。
 「有床診療所*1として当院を開設して以来、『病院で起きることは診療所でも起きる』と、実感していました。
患者数も増加の一途でしたから、当院としての安全管理を標準化する時期だと痛感したのです」

 同年7月、遠藤氏と看護師によるカンファレンスで、実際に起こり得る医療事故について話し合われ、7項目に分類する。
その各項目を看護師が一人ずつ担当し、その後、全職員が参加する形で院内事故防止対策マニュアル(以下、マニュアル)(表1)を作成した。

 「ヒヤリハットなど過去のデータから、担当項目に該当する有用事例を抽出し、防止対策を具体化しました。
それを院長との数回にわたるカンファレンス、また全職員にフィードバックしての検討を経て、マニュアルに仕上げていきました」



院内感染(表2)等を担当した看護副主任の飯塚浩美氏は、当時を振り返る。

 「担当看護師が整理したものについて、院長と質疑応答を繰り返します。
必要に応じ外部研修にも参加させてもらいましたが、院内では気づかなかった視点や新たな情報などをスタッフと共有して、マニュアルにも反映させました」

 作成を通し、全職員が各項目における医療安全の基本を再確認できたという。
看護師の場合は、「看護基準」や「看護手順」を各人が再確認をする機会にもなっている。
それは、輸液等のマニュアルを担当した看護師の鈴木弘美氏も同様だった。

 「基本を守り行動することで、看護業務の事故防止が可能だと気づきました。
ヒヤリハットの多くは、日々の忙しさ、また仕事への慣れから、手順を省く(省略エラー)、思い込む(思い込みエラー)ことで発生していたのです」

 2001年に7項目のマニュアルが完成。
03年には、新たに「転倒・転落事故」「放射線事故」が、05年には「食中毒」「事務(表3)」「個人情報保護」が追加され、現在は12項目をベースに、安全管理の徹底が図られている。

 ヒヤリハットが起きると、インシデントレポート(図1)をベースに対策を検討、マニュアル見直しにも生かしている。

事務も厨房も有機的な患者支援をするために部署内だけでなく診療所業務の全体像を把握

 遠藤氏にとって、マニュアル作成の基本姿勢は5つ(表4)。
 「実効性があるのは肖然です。だからこそ、誰もが実践できて成果が上げられるものを目指しました」

 診療と同様、安全管理もレベルアップは当然であり、そのための研鑽は組織として積む必要がある。
しかしスタートは、誰もが納得して取り組めるものでなければならない。

 「マニュアル作成は安全管理を標準化するだけの作業ではありませんでした。私の医療に対する姿勢、そして当院の全職種による有機的な連携の重要性を、関係者全員で再確認する作業にもなりました」

 有機的な連携は、役割分担のみを意味しない。
構成メンバーが同様に全体像を把握していなければならない。
それは診療所の全体像であり、各部署の全体像である。

 「事務の場合、『受付』から『会計』までの業務をローテーションで担当します。全員が、同様にこなせるためです」

 そのためには、院長からの指示等「必要な情報はどんな些細なものでも全員に伝える」ことが基本となる、と事務主任の小沼貞子氏は説明する。
 「例えば当院は院外処方ですので、保険薬局(囲み1)からの疑義照会も、受けた人間がその内容を他の事務職員に伝えます。
自分のミスや院長からの注意、患者さんについて気づいたことも情報共有します。
必要があれば他の職種にも伝えます」

 栄養士の磯川文子氏は、厨房も同様だという。
厨房では、午前と午後の給食担当が異なるため、磯川氏が厨房としての情報共有を統括する。

 「連絡事項は、その場でメモをとり、伝えたい相手が必ず見る場所に貼ります」

 それはロッカールームの扉、タイムカードあるいは献立表(写真2)等である。
連絡事項がないかの確認は当然だが、連絡漏れを防ぐ意味で「必ず見る場所」に貼っている。

 「確認ということでは、例えば食事伝票の記載が間違っていると思っても、勝手に修正はしません。
必ず、記載した本人に確認をし、ミス防止に努めます」
 「間違っている」と思ったことが自分の「勘違い」や、自分に伝わっていない「伝達ミス」の可能性もあるからだ。

 「ダブルチェックの意味からも、勝手な判断はしません」

指示漏れミス防止に威力を発揮する「指示棒」、カルテの職員記入欄は院長等への伝達に効果

 確認、ダブルチェック、そして的確な伝達、正しい情報の共有ということでは、カルテに挟みこむ「指示棒」(写真3)も活躍している。
指示棒は、5cm×30cmほどの薄いプレートで、例えば「急ぎたい人」「外傷」「熱が高い」や「経鼻GTF*2」「採血GTF」「CF」といった検査名など、服務職員と看護師がそれぞれ必要な指示棒をカルテに挟んで伝達をする。

 「受付時に、患者さんが何を目的に来られたかが分かれば、待ち時間の間にできることは済ませるようにします」

 小沼氏は、指示棒が患者の待ち時間短縮にも威力を発揮しているという。
こんな事例もある。

 「点滴後会計」の指示棒が挟まったカルテが会計に回ってきた。入職して問もない事務職員は、その患者の顔を覚えていない。
そのため、点滴が終了したにもかかわらず会計を長く待たせてしまった。

 その反省に立ち、点滴時、点滴バッグと一緒に「点滴後会計」の札と点滴中の患者の名札を点滴スタンドにかけるようにする。
点滴が終了すれば、2枚の札が会計に回る。
事務職員は「名札を見たらお前を呼ぶ」ことで、スムーズに会計を促すことができるようになった。

「院長はよく『木を見て森を見ず』とならないように『全体をみるように』と言います。
事務でいえば、待合室全体に目配り気配りをしていれば、長く待たせている患者さんにも当然気づくからです」

 小沼氏は、そうして気づいたことも職員が情報共有し、改善に結びつけることで、同院としての標準化、レベルアップが図られているという。
カルテにも、患者を思いやる「気づき」から生まれた職員記入欄(写真3)がある。

 「カルテの『既往症・原因・重要症状・経過等』『処方・手術・処置等』は院長が記入しますが、その間の空欄には、全職員が患者情報として伝えたい連絡事項を書き込みます」
 飯塚氏は、患者の訴えや受付時の「気づき」、あるいは「実は数日前に他院を受診していた」など、院長に伝えたいことを記入するという。

 また、日に100人以上を診療する同院ではあるが、問診表の質問項目は多い(囲み2)。
それは患者だけでなく、「私たちのため」でもあると鈴木氏は言う。

 「外来の初診時だけでなく、検査前や入院時にも、感染症やアレルギー、症状などを詳しく聴き取り、記入するようになっています。詳しい情報の伝達は、感染防止や麻酔でのリスク回避の一助となるなど、結果として的確な診療をサポートできるからです」

 的確な診療に欠かせない地域連携ということでは、保険薬局に対しても配慮がなされている。
 「例えば『授乳中』『妊娠何ヵ月』『○○は禁』『△△の薬で吐気あり』など、個人情報には細心の注意を払って、処方箋に消せる鉛筆書きや付箋を使って伝達します」

 小沼氏は、スペシャリストとしての薬剤師の判断を仰ぐ意味でも、情報提供は欠かせないという。
 「患者像の共有、その上での的確な服薬指導。保健薬局では、処方箋が唯一の情報源ですから、できるだけ補足的な情報提供も怠らないようにしています」

正確な情報伝達・共有は、日々の変化を感受し改善を図る組織風土があって初めて可能となる

 同院では、院長からの口頭指示の際、受ける側は必ずメモをし、復唱する。
疑問・質問があれば、その場で聞き、先のばしにしない。

 「多忙であれば、指示・伝達を忘れることもあります、それを防止するには、伝達手段を明確にし、全員で実践するしかありません」
 それは遠藤氏にとって「院内事故防止対策マニュアル」といった文章化されたことの実践だけを意味しない。
「メモにして伝達をする」、「全員で情報を共有する」、あるいは「合同カンファレンスで解決策を探る、レベルアップを図る(表5)」といった、同院としての一貫した取り組み姿勢を風土として育成していくことも意味している。
 しかし、取り組みは決して杓子定規になってはいけない、と念を押す。

 「すべては日々変化します。患者さんや職員の体調や気分も日によって異なるでしょう。全員がそういったことにも配慮し、全体をみながら個々人と向き合うことで、初めて最新で正確な把握ができ、伝達すべき情報となるのです」

 従って同院では、インシデントレポート同様、患者アンケート(表6)や健康セミナー(囲み3)も、正確な情報収集に欠かせない要素となっている。
正確で、必要な情報を的確に伝えるのが伝達力。
その上で成り立つ、質の高い安心とまごころのチーム医療を、同院は提供している。