先生の医療記事新聞集
機能温存の手術選択を
読売新聞 H22.4.4
今回の「病院の実力」は、痔の治療を担う肛門科を特集する。読売新聞は2010年1月〜2月、内痔核治療法研究協会加盟施設のうち、痔核(いぼ痔)のALTA(内痔核硬化療法)を実施している施設830か所に対し、2009年の治療実績などをアンケートした。
痔の6割以上を占めるのは 痔核で、手術で切除する結紮切除術が代表的な手術法だ。
診療所では日帰りで行うところもある。
しかし、手術後に 出血などが起こる可能性があり、病院では数日の入院を勧めることが多い。
ALTAは、痔核に炎症を 起こさせる注射をし、縮小させる新しい治療だ。
痛みの神経がない直腸の末端部分にできる内痔核に行う。
痔核を切除しないため日帰りで行いやすいが、外痔核には向かず、再発率が高いなどの欠点もある。
一方、肛門の奥にばい菌が感染し、ウミがたまるのが痔ろうだ。
進行すると肛門の近くに別の穴があくこともある。
治療の基本は手術で、程度によって様々な方法がある。
手術で肛門の周囲の括約筋が傷つくと、便漏れなどの恐れがある。
医師とよく話し合い、可能な限り機能を温存できる治療法を選択したい。
表には、肛門科の医師数と、そのうち女性医師の数も示した。
気恥ずかしさから受診が遅れがちな女性患者に対応するため、東京や大阪の施設を中心に、女性医師が増えている。
お独立した肛門科がないため0人と回答した施設があるほか、肛門科以外で手術する医師の数も含めて回答した施設もある。
痔ろう がん化の危険性も
痔は、生活習慣病の一種だ。お酒の飲み過ぎや便秘、同じ姿勢を続けることによる血行不良も良くない。会津地方では、かがんだまま田植えなどを行う農家の人も多く、農繁期の後に診察や手術が集中するのが特徴的だ。
近年は、ダイエットから便秘になり、切れ痔になる10歳代、20歳代の女性も増えた。
こうした患者は全体の約6割を占め、生活を改善すれば痔が小さくなる。
本人が日常生活で不快に感じなければ手術は不要だ。
ところが、肛門周辺にウミの小さな管ができる痔ろうは基本的に手術しか治療法がなく、10年以上たつとがん化 する危険性もあるので要注意だ。
さらに、本当は大腸や直腸がんなのに、出血から痔と自己判断して来院せず、発見が遅れることも珍しくない。
09年、お尻の出血を訴えて当院を受診し、大腸と胃の内視鏡検査をした患者さん延べ4214人の3・2%からがんが見つかっ た。
出血があれば受診し、40、50歳代以上の人には内視鏡検査を受けてほしい。
恥ずかしくても、わずか数%のがんの確率が否定されれば安心できるし、がんであっても早期に治療を始められる。
ところで、あまり知られていないのが赤ちゃんの切れ痔だ。
肛門が未発達で傷つきやすい上、2歳頃になると、排便のしつけによるストレスから自律神経を乱して便が硬くなりやすい。
また、肛門の周りにウミがたまる肛門周囲膿瘍は、大半が3歳頃までに自然に治るが、慢性化すると思春期に痔ろうの手術が必要になる。
痔になったら肛門科を受診し、お漏らししてもガミガミ怒らず、気持ちを安定させて便を軟らかくすることを心がけたい。