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先生の医療記事新聞集

命をつなぐ絆・じっくりと患者の不安を聞く

読売新聞 H17.11.3
「飲み会がよくあるのですが、お酒はどの程度飲んでいいのですか」「痔は塗り薬で治るのですか」。
1日の診察が終わった6月23日夕、会津若松市の「えんどうクリニック」のカンファレンスルームでは、遠藤剛院長(46)が講師を務める恒例の健康セミナーが開かれていた。

診察室という限られた空間では話せないことを、ひざをつきあわせて語り合うのが狙い。
この日は胃や大腸の検診をテーマに、外来患者ら16人が熱心に耳を傾けた。
「内視鏡検査を年1回受けていれば、万が一、がんが見つかっても、早期がんであることがほとんど」「医者任せではだめ。
患者も、もっと質問しなきゃ」和やかな雰囲気の中、話題はいつしか、医療全体の話にも広がっていった。

胃がんや大腸がんを専門に、外科医として活躍してきた遠藤院長。
大学病院などでその腕を振るってきたが、当時の激務を「人を診て、人を見る時問がなかった」と振り返る。

一人一人の患者の話をじっくり聞きながら専門性を発揮する医療を実践したいと、1994年に開院したが、今では1日平均約150人の外来患者が押し寄せ、1人の診察に、10分もかけられない状態。
そこで、診察を終えた後に、月に2回、健康セミナーを開くことにした。
 
読売新聞福島支局が3月に行った世論調査で、普段利用している医療機関への不満を複数挙げてもらったところ、「診察の待ち時間などが長い」が34.4%と圧倒的多数。
続いて「診察時間が短く、医師が熱心に診察してくれない」が13.3%、「治療方針や症状などについて、医師に聞きづらい」が11.6%だった。

医師の側からすると、患者の話を一人一人じっくり聞けば、その分他の患者の待ち時間が長くなり、待ち時間を短縮しようとすれば、診察時間が短くなるというジレンマに陥ることになる。
 
県内の病院では、外来を予約制にしたり、医師が患者の悩みに無料で応じたりという取り組みが徐々に広がり始めているが医療費が抑制される傾向にある中、すべての病院が対応できるとは限らない。

遠藤院長の健康セミナーは、カンファレンスルームでの相談だけでは終わらない。
場所を診察室に移し、遠藤院長が個別に相談に応じることも多いという。
「父が余命1年と診断された。
どうすればよいですか」「手術のうまい先生はどこにいますか」 「看護師さんがいて恥ずかしくて言えなかったのだが、痔かどうか診てほしい」。
その話題は、医療関係はもちろん、嫁しゅうとめ問題や仕事の悩みまでに及び、胃かいようを患った患者が、悩みや不安を遠藤院長に吐露することで、薬が要らなくなったケースもあったという。

「患者の悩みを聞いてあげることは、医師としての重要な仕事。
ニーズも高い上、医療費の抑制にもつながる」。
遠藤院長はそう確信している。
 「患者の気持ちをくみ取らなければ医療はできない。
遠藤院長は、医師である限り自らの医療哲学を貫こうと考えている。